ピットリビング(ダウンフロア、ダウンリビング)とは
ピットリビングとは、部屋の床に段差を設けて低い位置に床面を再構築し、他の床より下がった空間をリビングスペースとして利用する住宅デザインの1つです。ピットリビングはダウンフロアやダウンリビングとも呼ばれることがあります。
ピットリビングは住宅設計のアイデアとして人気のスキップフロアの1種と考えられ、特に床を低くしてリビング空間を設けたものがピットリビングです。
ピットリビングを活用することで、平面的な床に立体的な広がりを追加し、室内空間の自由度を高めることができます。
ピットリビングのメリット
空間を緩やかにゾーニングできる
ピットリビングの特徴でありメリットとして、物理的な障壁や間仕切りを使わずに空間を区分けしてゾーニングできる点があります。
人間の意識や感覚は不思議なもので、そこに段差があるだけで、壁やパネルといった物理的な区切りがなくても、ピットリビングの空間を他の床の上とは別のものとして認識します。そのため、ピットリビングを設けることで自然に床の一部をくつろぎ空間として利用することが可能になり、間取りの自由度を維持したまま空間作りの幅を広げられます。
また、例えばピットリビングの床面を工夫したり、そこへ降りる際にスリッパを脱ぐといったルールを設けたりすれば、一層空間としての楽しみ方を追求できます。
開放感・大空間を最大限に演出できる
ピットリビングを設けることで、単純に床面を下げて室内の空間を三次元的に拡張することが可能となります。
これによって一層開放的な室内空間を演出できる他、部屋全体の印象を変化させて視覚的なオリジナリティを獲得できることもメリットです。
また、ピットリビングを照らす照明や床のデザインなどを工夫することで、おしゃれで特別な空間演出を実現することもできます。
デザイン性の高いリビングになる
ピットリビングは、豪邸に暮らす人々のライフスタイルに合わせて、室内の自由度を維持しつつ多種多様な演出やデザインを盛り込める家づくりのアイデアです。こだわりの家や豪邸に相応しい特別な空間を叶えたい人におすすめです。
例えば和風デザインの豪邸や和モダンなデザインの豪邸を建てたい場合、ピットリビングにこたつや畳を組み合わせることで、その家のコンセプトやテーマを体現するシンボリックスペースを作ることも可能です。
程よい「おこもり感」が落ち着く
物理的に部屋を区切る壁やパネルがなくても、ピットリビングは人の無意識に「区切り」を感じさせてくれることがポイントです。
これにより、ピットリビングは壁に囲まれた空間としての閉塞感を排除しつつ、自分の部屋やリビングといったプライベートなリラックス感を同時に得られることがメリットです。
またゲストを招いた時には、ゲストがピットリビングの縁や段差に腰掛けるなど、解放感とプライベート感を半々にするといったスタイルも楽しめます。
ピットリビングのデメリットと後悔しないための対策
ピットリビングは設計やデザイン次第で色々な使い方を考えられるアイデアであり、上手に取り入れることで間取りはそのままに空間の楽しみ方を広げられます。しかし、きちんとしたコンセプトやテーマに基づいてピットリビングを設置しなければ、ただ床に変な段差ができて生活しにくくなったり、ピットリビングに座っていても逆に落ち着かなかったりといったデメリットが拡大される可能性があります。そこで、ここではピットリビングのデメリットや導入に際しての注意点などをまとめていますので、ぜひプラン検討の参考にしてください。
ライフステージの変化とバリアフリー対策
現代の住居は高齢者になっても安心して暮らせるよう、安全な生活空間を整えることが重要とされており、例えば室内の段差を可能な限り解消するバリアフリー対策もその1つです。
一方、ピットリビングはあえて段差を設けてリビングスペースを下げる設計アイデアであり、バリアフリー対策とはどうしてもコンセプトとして相反してしまいやすいことがデメリットです。
豪邸を建てる際の施主やテーマは様々で、中には若くてバリアフリー対策を気にしなくて良いという人もいるでしょう。しかし、比較的高齢な人や、こだわりの豪邸で生涯を暮らしたいと考える人もいます。そのため自分にとって豪邸の価値やライフステージの変化なども考慮して、ピットリビングをデザインすることが重要です。
具体的な対策としては、ピットリビングへ降りるための段差を小さくしたり、ピットリビングの一角へスロープを取り入れたりといった方法もあります。
高齢者や子どもが転倒・落下してケガをするリスク
バリアフリー対策とも関係しますが、高齢者や幼い子どもがいる家庭では、ピットリビングを設けることで家族が段差でつまずいたり、ピットリビングへ落下したりといった事故のリスクが高まります。また、ゲストを招いてパーティなどを催した際に、飲酒によって酔ったゲストが慣れないピットリビングで転んでケガをするかもしれません。
ピットリビングはおしゃれで自由度を高められる住宅デザインですが、設けることで不自由で危険な暮らしにならないよう、冷静に検討することが必要です。
高齢者や子どもだけでなく、ペットが一緒に暮らしている場合も、特にペットが高齢になった際などに事故のリスクが高まる点は無視できません。
室内のデザインの幅が狭まる可能性
ピットリビングは開放的で自由度の高い空間演出を叶えられる反面、家具の配置や動線といった物理的な選択肢は狭めてしまうデメリットもあります。
例えば平坦な床のリビングであれば、気分によってテーブルの配置を移動したり、家族の人数が増えたり減ったりした際に家具のサイズや数を変更したりすることも行いやすいでしょう。しかしピットリビングではリビングスペースとして利用できる場所が最初から固定されているため、どうしても模様替えなどの自由度は下がってしまいます。
また背の低いソファなどを設置する場合、ピットリビングの段差も考慮しなければ、ソファへ腰を下ろした際にむしろ閉塞感を感じてしまう恐れもあります。
床暖房を利用できないリスク
ピットリビングは他の床面よりも低い位置に設けるため、構造や設計によっては床暖房を利用できない可能性がある点も無視できません。
暖気は室内の上に行きやすく、寒気は低い位置に行きやすいという性質上、床暖房を利用できない場合はピットリビングが寒く感じられるかもしれません。そのような場合には、全館空調を工夫するなど寒さ対策が別途必要です。
ロボット掃除機などを利用しにくい
床の上を自動で掃除してくれるロボット掃除機を利用している家庭の場合、ピットリビングがあるとその位置だけ掃除機がアプローチできない可能性も考えられます。そのため掃除やお手入れで余計な負担が生じる恐れはデメリットといえるでしょう。
ピットリビングの満足度を上げるポイント
家具やインテリアにこだわる
ピットリビングはリビングとして利用できるスペースの位置やサイズが設計時点で固定されてしまい、設置する家具などのインテリアに制限が生じることは事実です。
だからこそピットリビングではインテリアにこだわり、自分なりの空間設計をプランニングすることが楽しみになります。また、ピットリビングに合わせてオリジナルのテーブルやチェア、ソファセットなどを設計・製作してもらうことも魅力的なアイデアです。
その他にもピットリビングの床面を他の床面と異なるデザインにすることで、視覚的な楽しみや彩りを一層広げることができます。ピットリビングを照らす照明装置を工夫しておしゃれ空間の演出を楽しめることも魅力です。
スキップフロアと組み合わせる
段差を下げるピットリビングを設けるだけでなく、室内の他の場所にも段差を設けてスキップフロアを併設するといったアイデアも人気です。
ピットリビングとスキップフロアの併用は床面のさらに段差を増やすため、立体的な空間デザインとして効果的です。しかし、床面積の狭い住居では暮らしにくい構造を作ってしまうことが課題となります。個人宅におけるピットリビングとスキップフロアの併用は、まさに豪邸などある程度の面積規模を用意できる住宅ならではの楽しみ方です。
スキップフロアとピットリビングをバランス良く併設できた場合、それによって実現できる空間の魅力は、他にないこだわりの豪邸に相応しいものとなるでしょう。
デザイン性の高いピットリビングで心地よく暮らす
独自のデザインを叶えつつ、日常生活の快適性や住環境の自由度も損ないたくないという人にとって、ピットリビングは効果的な住宅設計の1つです。
しかし、床面を下げて段差を設け、低い位置にリビングスペースを作るというプランは、未熟なデザイナーや職人がプランニングするとただ暮らしにくい家を作りかねません。
世界で1つの特別な豪邸にピットリビングを取り入れる際は、実力と人柄の両面から信頼できる専門家を探すことが大切です。